ワンホーン・ジャズの真の面白さ、ここに極まる!

Live at Bird's Eye
Stewy von Wattenwyl Trio
featuring Eric Alexander
ステューイ・フォン・ワッテンウィル・トリオ
feat. エリック・アレクサンダー
ライヴ・アット・バーズ・アイ
Label:Roving Spirits CD品番:RKCJ-2008
発売日:2003.4.23 POS:4544873 02008 7
税込価格\2,625 税抜価格\2,500
発売会社:有限会社ローヴィング・スピリッツ 販売会社:
スリーディーシステム株式会社  株式会社プライエイド・レコーズ
【メンバ−】
ステューイ・フォン・ワッテンウィル(p) Stewy von Wattenwyl
ダニエル・シュラッピ(b) Daniel Schlappi
ペーター・ホリスベルガー(ds) Peter Horisberger
エリック・アレクサンダー(ts) Eric Alexander
【収録曲】
1.Second Milestone (Eric Alexander)
 セカンド・マイルストーン
2.Moment To Moment (Henry Mancini)
 モーメント・トゥ・モーメント
3.Dolphin Dance (Herbie Hancock)
 ドルフィン・ダンス
4.O Grande Amor (Antonio Carlos Jobim)
 オ・グランジ・アモール
5.Olivia (Stewy von Wattenwyl)
 オリヴィア
6.Voyage (Kenny Barron)
 ヴォヤージ
録音:2002年3月22日 ジャズ・クラブ“bird's eye”バーゼル ライヴ録音
(Recorded Live at Jazz Club "bird's eye", Basel on March 22,2002)

【Credit】
Produced by Masahiro Tomitani and Stewy von Wattenwyl
Co-Produced by Yoshio Matsushita
Recorded live ADD at "bird's eye" Basel, march 22, 2002
Recorded by Peter Schwarz
Mixed and Mastered by Stefan Otto
Photos by Leila Obeid

Eric Alexander appears courtesy to Fantasy Records
Contact and Booking: contact@stewyvonwattenwyl.ch

(P)2003 Roving Spirits Co.,Ltd.
http://www.rovingspirits.co.jp

*ライナーノーツ執筆者:悠 雅彦、ステューイ・フォン・ワッテンウィル
【ライナーノーツ】
ステューイ・フォン・ワッテンウィル・トリオ feat. エリック・アレクサンダー

 ヨーロッパの現在進行形のジャズが急速に注目度を高めつつある中で、スイスのトップ・ピアニストの1人ステューイ・フォン・ワッテンウィルが率いるトリオの新作が登場する。これは彼自身の通算6枚目のリーダー作に当たるが、過去5作品中4枚(すなわちBrambusレーベルの全作品)が紹介されたこともあって日本でのワッテンウィルの認知度も深まってきており、その中でのタイミングのいい新作の登場ということになる。しかも、この新作にはわが国でも新鋭テナー奏者として高い人気を獲得しているエリック・アレクサンダーがゲストでフィーチュアされており、このワッテンウィル・トリオの演奏にいっそうの華やかさと活気を与えたという点で、期待に十二分に答えた作品といってよい。

 ワッテンウィルが日本で注目されるようになった裏には、今日のヨーロッパ・ジャズ・ムーヴメントが背景としてしてあることはいうまでもない。ここで銘記しておきたいのは、このヨーロッパ・ジャズ・ムーヴメントが単なる一過性の現象でないのと同様に、ワッテンウィルへの関心が単にこの流れに便乘する形で現れたものではないということだ。一昔前を想起してみればよい。ヨーロッパのジャズが脚光を浴びたことは過去にも何度かあった。それが現在のムーヴメントと異なる最大の点は何かといえば、一方にその対抗軸として常にアメリカのジャズがあったことだ。日本のみならずヨーロッパもまたジャズの本場をアメリカと考える空気がいぜん一般的だったのだ。ジャンゴ・ラインハルトに代表される創造的な演奏家を何人かは生んだにもかかわらず、体勢は米国をジャズの本場とする非生産的な従属性からなかなか脱却しえなかったのである。ミュージシャンの方も、米国ジャズの支配性から自由になってヨーロッパ独自の風土や知性に根ざした創造性を目指しながら、一方で対抗軸としてのアメリカのジャズを絶えず意識せざるをえない強迫観念を克服しなければならない宿命を背負っていた。ところが、70年代のある時期を境に、徐々にヨーロッパのジャズはこの重石から解放されていく。この点で見逃せないのはECMレーベルの影響力だが、つまり簡潔にいえば、こうした影響力やさまざまな要素が混ざりあって生まれた解放気分が波及する中で、自虐的な強迫観念から解き放たれ、従来の本場論に立つことなく自由にのびのびとジャズを謳歌する精神性が芽生えたということだ。これが今日のヨーロッパ・ジャズの新しい土台となった。ベルリンの壁崩壊以後の新しい波やヨーロッパ共同体の誕生なども無関係ではないが、いずれにせよ現代の若い世代のミュージシャンはすべて欧州に新たに生まれたこのような気風の中で生まれ育ち、ジャズを自然体で受容してきた人々といっていいだろう。ある意味で、欧州全体がジャズの解放区だった。スイスのワッテンウィルもこうした気風の中で自己を確立してきたミュージシャンの1人である。

 加えて彼は、キャリアの出発点となったといっていい晩年のアート・ファーマー・グループでの活躍ばかりでなく、ジョニー・グリフィン、クラーク・テリー、ボブ・ミンツァーといった米国の名うてのプレイヤーと数多く共演する機会に恵まれた。そのことがジャズの基本的な演奏メソッドやスキル(技法)、実践上のさまざまな技を身につける上で、彼に貴重な体験をもたらしたことは疑いようがない。彼がいわゆるアメリカン・バップ・スタンダード奏法にたけたピアニストたる背景がここにある。このことは、彼自身が記した英文ノーツにある「即興、相互作用、そして演奏する大きな喜び」、これらがエリックと共通しあっていたからこそ演奏の共同作業やグレイト・アメリカン・ソングブックへの畏敬の念を分かち合い、それに則った演奏を成功裏に導くことが出来たという指摘にも明らかだろう。この演奏が行われた当時ちょうど40歳を迎えたワッテンウィルの流麗なピアノ奏法にいっそうの洗練味が感じられるのも、エリックとの相互交歓がいかにスムースで自然だったか、またいかに快適に燃焼しあっていたかを示して余りある。この素晴らしいライヴ演奏を生んだもうひとつの要因は、これがワン・ホーン・ジャズの魅力を存分に発揮した演奏であることだ。

ホーン奏者がそのホーン楽器のメロディー楽器としての能力と特性をフルに活かした演奏に徹し、それがリズム・セクション、ここでのピアノ・トリオと一体となって燃え上がれば、ジャズの魅力を最大限に伝える演奏が実現するという、これは最良の例となっている。言い換えれば、ワッテンウィル・トリオにとってと同じように、エリック・アレクサンダーにとっても彼の最も優れて魅力的でエキサイティングな側面がストレートに発揮された演奏といってよいだろう。ジャズ・ファンにはこたえられない1作であるが、ビギナーにとってもジャズの魅力をハッケンできるアルバムとなった。これは10日間にわたるこのユニットのツアー2日目、スイスのバーゼルにあるジャズ・クラブ「Bird's Eye」での演奏だが、ワッテンウィル自身が「たちまち評判となって人々の間に伝わった」というほどの、まさにライヴならではの力のこもった熱演のドキュメントである。

 エリック・アレクサンダーは米国に先駆けて日本が発見した逸材といっても過言ではない。アルファでの数作で若手最高のテナー奏者とファンの評判を獲得したあと、マイルストーンでの「ソリッド」、「ザ・ファースト・マイルストーン」、「ザ・セカンド・マイルストーン」、「サミット・ミーティング」等のアルバムで現有テナー奏者の屈指の1人としての地位を確立した。現テナー界の雄マイケル・ブレッカーとは一味違う奏法で、50年代のコルトレーンやデクスター・ゴードンらの奏法に立って自己の境地をさらに堅固なものにしつつある彼の、特に構成力のある淀みないフレージングと、よく歌う息の長いメロディック・ラインという特徴と持ち味がこの演奏で堪能できる。

 前作の「クッキン・ライヴ」からドラマーがヤン・クロフェンスタインからペーター・ホリスベルガーに変わった。ベースはワッテンウィルのよき相棒ダニエル・シュラッピで不動。ヨーロッパを代表する屈指のピアノ・トリオとしての実力と魅力を遺憾なく発揮してエリックを守り立てている。現代最高のヨーロッパ・ジャズの実りをここに聴くことができるだろう。曲や演奏についてはワッテンウィルがノーツに書いているので参照していただきたい。
                      2003年3月  悠 雅彦
Linernotes by Stewy von Wattenwyl

When I had the pleasure to work with Eric Alexander, certainly one of the worlds greatest young tenor players for the first time at the famous "Marian's Jazzroom" in Berne, I could feel from the very first beat on a musical congeniality which would make possible a very fruitful co-operation: openness and respect for the tremendous material of the "Great American Song-book", contemporary concepts of improvisation and interplay and a tremendous joy to play.
It was a great honour for me to introduce Eric to a larger public in March 2002 on the occasion of a 10-day-tour with my trio through Switzerland's most famous jazz clubs, of which you hold a sample of the second night at the "Bird's eye" in Basel.

"Second Milestone" is an Alexander original with a "simple" harmonic structure and a strong melody. Eric blows a passionate solo while the band behind him is cookin' hard. A lot of inter-esting things happen and after my short solo Eric and Peter add some captivating 8th's. On this opener it becomes obvious how perfect Eric fits in to the sound of my trio. "Moment To Mo-ment" is a wonderful ballad, written by Johnny Mercer and Henry Mancini, which I didn't know before and immediately filled me with enthusiasm. Here Eric shows his maturity not only as a burner but also as strong interpret of slow tempos. His sound is warm and full, he phrases per-fectly and allows the song to breathe. Check out the great cadence he adds to this take. The Herbie Hancock composition "Dolphin Dance" has become a standard and it's hard to say something new with it. Make up your mind! Anyway, Daniel and Peter raise one more time no cause for doubt, that they are one of the most swingin' European rhythm sections! The rarely played "O Grande Amor" is not only one of my favourite bossas but also one of Eric's, which one can easily hear. "Olivia" is an original of mine with a more free and modern approach. I dedicated it to my lovely daughter. Although Eric had to play it for the first time that night, with no light on the music stand and a bad sheet, he plays a very soulful solo. We finish this release with the great "Voyage" by Kenny Barron, where Peter is featured again with a rich and colour-ful drum solo.


 私が初めてエリック・アレクサンダーと共演したのはベルンにある"マリアンズ・ジャズルーム"であった。彼は世界最高峰の若手テナーサックス奏者であり、私の音楽的好奇心を沸き立たせるに十分な音楽家であった。エリックと私に共通していたのは、即興性と相互作用、それに演奏する喜びを重んじる"Great American Songbook"に対する畏敬の念であった。 2002年3月、私はこのバンドと共に10日間のツアーでスイスの有名なジャズ・クラブを回りエリックの演奏をより多くの人達に聞かせる事に、私は非常な名誉を感じた。ツアー2日目バーゼルの"バーズアイ"での演奏は多くの人が知るところとなった。

 "Second Milestone"は、アレクサンダーのオリジナル曲である。シンプルな構成ながらも力強いメロディーがあり、後ろで演奏するバンドにエリックの情熱的なソロが光る。非常に面白い演奏であり、私の短いソロの後にエリックとペーターの魅力的な8小節が入る。この曲を聴けばエリックの音が如何に私のトリオに合うかが分かっていただけるだろう。"Moment To Moment"はジョニー・マーサーとヘンリー・マンシーニによって書かれた素晴らしいバラードである。当初、私はこの曲を知らなかったのだが、すぐにこの曲に魅了されてしまった。この曲の中でエリックはその才能の成熟ぶりを発揮している。スローテンポのバラードの素晴らしい解釈、そして暖かで厚みのある音と演奏は完璧。この曲の最後の彼のフレーズは必聴に値する。今やスタンダード・ナンバーであるハービー・ハンコック作曲の"Dolphin Dance"に新しさを見つけるのは難しいだろう。だが、このテイクを聴けばダニエルとペーターがヨーロッパで最もスイングするリズム・セクションのひとつだという事が分かっていただけるだろう。"O Grande Amor"はあまり演奏される機会の少ない曲なのだが、私とエリックが好きなボッサのひとつであり、誰にでも楽しめる曲である。"Olivia"は私の作った曲。自由性とよりモダンなアプローチで書いたこの曲は、私の愛する娘に捧げた曲である。エリックがこの曲を演奏するのはこのテイクが初めてにも関わらず(楽譜を読む為の灯りも無しで!)、彼のソロは実にソウルフルだった。このアルバムの最後を飾るのはケニー・バロン作曲の偉大なる"Voyage"である。ここでもペーターのカラフルで豊かなドラムソロをフィーチャーした。
                    ステューイ・フォン・ワッテンウィル
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