名古屋を拠点にして、大阪、東京、ニューヨークからシアトルまで今や世界的な活動が注目されるC.U.G.Jazz Orchestra のメンバーが中心になってスタートした新レーベル、CUG Recordsの第2弾。


大人のジャズをやれる奴が少なくなったなあ。
さりげない格好良さを聴かないか?


Jay Thomas with Cedar Walton Trio
/ Easy Does It
ジェイ・トーマス
with シダー・ウォルトン・トリオ
/イージー・ダズ・イット
【Recording Data】
First Session : At Triad Studios , Bellvue WA, USA on December 17, 1984
Engineer : Lary Neftzger, Tom Hall
Second Session : At Triad Studios , Bellvue WA, USA on December 10, 1985
Engineer : Scot Charles, Tom Hall, Charles Tamaras
Original Mastering Engineer : Daniel Hersch
Remastered by Ric Vaughan
Produced by Cedar Walton and Marvin Thomas


Label:CUG Records CD品番:RKCU-2602
発売日:2003.12.17 POS:4544873 02602 7
税込価格\2,300 税抜価格¥2,190
発売会社:
有限会社ローヴィング・スピリッツ
販売会社:
スリーディーシステム株式会社 
株式会社プライエイド・レコーズ

<メンバー>
Jay Thomas(tp, flgh, ts, fl), Cedar Walton(acoustic & electric piano), David Williams(b), Billy Higgins(ds), Becca Duran(vo), Luis Peralta(perc), Trombone section (Dave Keim, Lloyd Spoon, Fred Burrow, Dickie Thorlakson), Arranged by Cedar Walton, Trombone section Orchestlation by Bill Ramsay

ジェイ・トーマス(tp, flgh, ts, fl), シダー・ウォルトン(acoustic & electric piano), デヴィッド・ウィリアムス(b), ビリー・ヒギンズ(ds), ベッカ・デュラン(vo), ルイス・ペラルタ(perc), Trombone section (デイヴ・ケイム, ロイド・スプーン, フレッド・バロウ, ディッキー・ソーラクソン), Arranged by シダー・ウォルトン, Trombone section Orchestlation by ビル・ラムゼイ
【収録曲】

1. Getting Sentimental Over You (Ned Washington, Geo Bassman) 4:23
  センチになって
2. Some Other Time (Betty Comden, Adolph Green, Leonard Bernstein) 4:37
  サム・アザー・タイム
3. Secret Love (Paul Francis Webster, Sammy Fain) 7:01
  シークレット・ラブ
4. Little Tear (Eumir Deodato) 3:39
  リトル・ティアー
5. Dream Dancing (Cole Porter) 5:16
  ドリーム・ダンシング
6. Una Maas (Kenny Dorham) 4:40
  ウナ・マス
7. Blue Trane (John Coltrane) 4:06
  ブルー・トレーン
8. Born To Be Blue (Wells, Torme) 5:19
  ボーン・トゥ・ビー・ブルー
9. Beautiful Love (Young, King, Van Alstyne, Gillespie) 5:00
  ビューティフル・ラブ
10. Gloria (Branislaus Cappor) 4:44
  グロリア
11. Midnight Waltz (Cedar Walton) 5:21
  ミッドナイト・ワルツ
12. Jacob's Ladder (Cedar Walton) 4:54
  ジェイコブズ・ラダー
13. Everytime We Say Goodbye (Cole Porter) 4:11 *unreleased bonus track
  エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ

私の好きなアート・ブレイキーのアルバムの多くに参加していたシダー・ウォルトン。練習でよく聴いていたリー・モーガンのアルバム“サイドワインダー”やデクスター・ゴードンのアルバムの多くの曲でプレイしていたビリー・ヒギンズ。10代の、まだジャズを聴き始めたばかりのころからずっと彼等の大ファンだった私は、70年代から80年代初期にシアトルを代表したジャズ・クラブ、“パーネルス”にシダーのバンドが来た時、私は毎晩のようにそのクラブに通い、シダー、ビリー、デヴィッド、そしてボブ・バーグの演奏にどっぷりとつかったものでした。そのうちに共通の友人、サル・ニスティコを通してビリーと私は知り合い、幾度が話をするうちにすぐに仲良くなりました。1984年、私の父親が「シダー・ウォルトン・トリオとレコーディングしてみたいか」と尋ねてきた。最初は冗談だと思った私は、すぐにそれが冗談じゃない事に気付き、「もちろんYesに決まってるじゃないか!」と答えました。

 私は、レコーディングの前にシダー・ウォルトン・トリオが名門ジャズクラブ“ジャズ・アレイ”に出演した最初の夜に彼等と会いにクラブに向かった。ビリーはレコーディング直前で気が張っていた私に「そんなに緊張するなよ。きっと楽しいよ。」と声をかけてくれました。翌日から2日間、シダー達と私は収録曲のアレンジとリハーサルを行い、お互いを良く理解することが出来ました。

 レコーディング当日、スタジオに入りレコーディングが始まると、とにかく演奏が楽しくてそれまでの不安や緊張は全くうそのようでした。今でも忘れられないのが「シークレット・ラブ」を演奏したときのことです。私のソロの最初で崩した2ビートのリズム・セクションが、ソロのブレイクの後に強力にスイングする4ビートで戻ってきた瞬間、まるで強力な電流が流れる様な興奮を感じました。それはまるでロケットに乗っているようで、今でも忘れる事は出来ません。

 常に笑顔で私を支えてくれたビリーは、マイケル・ジャクソンのムーン・ウォークをやってみせたりして雰囲気を和ませるなど、いきいきと愉快でとても素晴らしい人物でした。ビリーよりは少し真面目なシダーとも楽しくプレイ出来ました。この日本盤にはボーナス・トラックとしてシダーと私のデュオ「エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ」が収録されています。私の音楽の好みが歳月を経て変わった結果、この曲は今では私のお気に入りの1つになりました。伴奏者としてとても明解なプレイをするシダーとのデュオはとても楽しいものでした。とてもクリエイティブな彼のプレイにジャズの歴史のすべてを聴くことが出来るでしょう。

 実は、このレコーディングの数年前には、ニューヨークでのジェームス・ムーディのアルバムへの参加や、ロンドンでジェイ・マクシャン、バディ・テイト、スリム・ゲイラードとの録音などの経験がありました。しかし、私の初めてのリーダー作であるこのアルバムにおいてシダー、デヴィッドそしてビリーの素晴らしいプレイヤー達に認められ、支えられ、そして自分のスタイルでプレイ出来たことは、何よりも幸運な経験でした。日本のジャズ・ファンの皆さんはジャズに対して深い知識をもっており、シダー・ウォルトンの素晴らしさはもちろん御存じでしょう。私は皆さんがこのアルバムをきっと気に入ってくれると思います。


演奏曲目について

●シダーも私もケニー・ドーハムの曲が好きで、シダーはニューヨークに移った初めの頃はケニーとよく演奏していたこともあって、この「ウナ・マス」はとても相応しい選曲でした。

●リハーサルの時にシダーが私に教えてくれた「エブリタイム・ウイ・セイ・グッバイ」は当時の彼のお気に入りの曲の1つで、私はジョン・コルトレーンのヴァージョンが好きでした。

●「ビューティフル・ラブ」は軽いジャム・セッションの演奏に、私の良き友人で、かつてカウント・ベイシーとプレイしていたビル・ラムゼイが5パートのトロンボーンを足して立派なテイクに仕上がりました。

●「シークレット・ラブ」はスタジオで即席アレンジで演奏した曲の1つです。私が思い描いていたリズム・バンプをバンドに伝えると、シダー達が即興で作っていきました。

●もう1つのスタジオ即席アレンジの曲、「センチになって」は、ブレイクでキー・チェンジする私のアイデアを元にシダーがバンプ・インタールードを考え出しました。

●「ミッドナイト・ワルツ」と「ジェイコブズ・ラダー」はシダーのオリジナル曲です。「ジェイコブズ・ラダー」にはビル・ラムゼイによるトロンボーン・アレンジを加えました。又、「ミッドナイト・ワルツ」では私の大きな口でフルートとフリューゲル・ホーンとテナーサックスを同時に吹いて…というのは冗談で、シダーがアレンジしたパートを後から足しました。

●メル・トーメの「ボーン・トゥ・ビー・ブルー」は私の師フロイド・スタンディファーが好きだったブルージーなラブ・バラードです。

●シダーのアレンジによる「ブルー・トレーン」はトロンボーン・セクションとアフロ・キューバンのインタールードにより、このアルバムが最初に発売された当時のラジオ・リスナーにとって最も刺激的な曲の1つでした。シダーは同時に複数のグルーヴを重ねる天才で、この曲でも8分の6拍子のアフロと少しゆったりした4拍子を豊かなセンスで重ねながらも、決して走ることなく彼のプレイは最高にグルーヴしています。

●あるピアニストが紹介してくれた雰囲気たっぷりのバラード、「グロリア」は「インビテーション」や「オン・グリーン・ストリート」の作曲者ブロニスラウ・ケイパーのあまりよく知られていない曲の1つです。ヨーロッパでフランシー・ボラン・ビッグ・バンドが録音したことがあるようです。

●もう1つの美しいバラード、「サム・アザー・タイム」はレナード・バーンスタインによる曲で、ビル・ラムゼイによるトロンボーン・アレンジ、シダーのフェンダー・ローズに加えて、ルイス・ペラルタのパーカッションが華を添えています。彼は南アメリカ出身のパーカッショニストでディジー・ガレスピーのツアーに参加しており、たまたまシアトルに来ていたところを、このレコーディングに参加してもらいました。彼の素晴らしいパーカッション・ワークは時にはステレオの左右に飛び回り、まるで流れ星のようです。

●「リトル・ティアー」では私の妻でヴォーカリストのベッカ・デュランを迎え、彼女のスムースで艶のある歌声がフィーチャーされています。またフルートとハーモナイズするインタールードはベッカによるものでとても効果的です。ビル・ラムゼイによるトロンボーン・アレンジも特徴です。余談ですが、かつてサラ・ヴォーンをはじめとした素晴らしいシンガーをかかえたレーベルのオーナー、アルバート・マルクスがベッカの歌を聴くとすぐに彼女をサインしたがりました。スコットランドのヘップ・レコードも彼女をサインしたがっていたのですが、私達がアルバート・マルクスと契約した直後に、彼はこの世を去ってしまいました。


このレコーディングはアルバート・マルクスのレコード・レーベルからリリースされました。私はシダー・ウォルトン・トリオという素晴らしいバンドに支えられて出来た初のリーダー作にとても喜びました。全ては、私の父の支えと、そしてシダー・ウォルトン、ビリー・ヒギンズ、デヴィッド・ウィリアムス等のサポートとミュージシャン・シップのおかげす。

皆さん楽しんでください。
Jay Thomas


−シアトルのジャズ職人、シダー・ウォルトンと出会う。−
Jay Thomas
Blues for McVouty

ジェイ・トーマス/ブルース・フォー・マクバウティ
※US輸入盤を使用
Label:CUG Records CD品番:RKCU-2600
発売日:2003.6.18 POS:4544873 02600 3
税込価格\2,300 税抜価格¥2,190
発売会社:
有限会社ローヴィング・スピリッツ
販売会社:
スリーディーシステム株式会社 
株式会社プライエイド・レコーズ

【members】
Jay Thomas(tp, flgh, ts), Billy Higgins(ds), Chuck Israels(b), Cedar Walton(p, track1,2,3 & 6), Dave Peterson(g, all tracks except 2), Bernard Wray(per, tracks4 & 5), Becca Duran(vo, track6), Tom Artwick(ts, track4)

【メンバー】
ジェイ・トーマス(tp, flgh, ts), ビリー・ヒギンズ(ds), チャック・イスラエル(b), シダー・ウォルトン(p, track1,2,3 & 6), デイヴ・ピーターソン(g, all tracks except 2), バーナード・レイ(per, tracks4 & 5), ベッカ・デュラン(vo, track6), トム・アートウィック(ts, track4)
【収録曲】
1. Blues for McVouty (Jay Thomas)
2. Easy Living (Leo Robin & Ralph Rainger)
3. Hallucination (Bud Powell)
4. Django (John Lewis)
5. Simple Pleasures (Jay Thomas)
6. Ev'rything I Love (Cole Porter)
7. Lover Man (Jimmy Davis, Jimmy Sherman & Ram Ramierez)
8. Moose the Mooche (Charlie Parker)
9. Detour Ahead (Lou Carter, John Frigo & Herb Ellis)
10. Big Foot (Charlie Parker)
11. Close Enough for Love (Johnny Mandel)
12. Love Letters (Victor Young & Edward Heyman)
【ライナーノーツ】  悠 雅彦

 ジェイ・トーマスの名は、日本ではごく一部のファンを除いて、広く認知されているとはいいがたい。いやわが国に限らず、本国のアメリカにおいてさえ、ジェイ・トーマスは一部の地域を除いてその名が通っているとはいえないかもしれない。だが、例えば多くのミュージシャンの間で彼は最も信頼できる演奏家の1人として知られており、このことはすでに100枚にも及ぶというレコード吹込に名を列ねている事実が雄弁に物語るだろう。トーマスの名が限定的だった理由は、ひとえにその活動基盤がシアトル(ワシントン州)と西海岸を結ぶ地域に限られていたからである。日本でも東京以外の各地で活動するローカル・ミュージシャンに陽の光が当たりにくいのと同じだ。トーマスの類い稀な能力と音楽的才能を知る人々はこぞって、「もし彼がニューヨークで活動を展開していれば、間違いなくトップ・ミュージシャンとしての実力が世界に知れわたったことだろう」と口をきわめる。一部とはいえ、彼の名がわが国で知られるようになったのは、名古屋を拠点に活動するC U G(Continued in the UnderGround)ジャズ・ オーケストラに参加し、ことに国内での演奏のためしばしば来日して以来のことである。C U Gのリーダー、テナー奏者の小濱安浩は「彼との出会いで私の人生は大きく変わった」と吐露した。このたび日本で初めて本格的に紹介されることになったこのCDは、トーマスがどれほど世界でも比類ない能力を持つジャズ・プレイヤーであるかを如実に示した秀作であり、小濱安浩が絶賛してやまないだけの実力の一端を示したトーマスの快演集である。「トーマスのような素晴らしいプレイヤーが日本でまったく知られていないのは残念」と思い続けてきた彼の熱心な働きかけで、ついに発売が実現することになった。

ジェイ・トーマスは1949年生まれというから、ぼくのよく知るサックス奏者ではチコ・フリーマンと同年令である。薬剤店を営む父のマーヴィンもかってリード・プレイヤーとして活躍した人であり、父の収蔵レコードの数々を聴いて育ったジェイが小学4年のときトランペットを習いはじめ、ジャズ演奏家を志したのも自然な成りゆきだったろう。当時の彼の最初のアイドルはアート・ブレイキーとジャズ・メッセンジャーズで、最初に覚えた曲があの「モーニン」だったという。高校時代に人前で演奏するようになったトーマスは67年春、ダウンビート誌の奨学金を得てボストンのバークリー音楽院に1年間学んだのちニューヨークに移住し、フレディー・ハバードの指導者としても知られるカーマイン・カルーソーについて学び、その間エルヴィン・ジョーンズやチック・コリアら多くの有名ジャズメンと共演する機会を持った。これからという矢先に伝染病に感染したためいったん郷里のシアトルに戻った彼は、静養中も地道に研鑽を続け、その間にはついにテナーとフルートの奏法を修得したというから驚く。74年からサンフランシスコで活動するようになり、ジェシカ・ウィリアムスらとの交流を通した研鑽で今日の演奏スタイルの基礎を確立。78年からはベイ・エリアで活動を展開し、シアトルと西海岸一帯でコンボからビッグ・バンドにいたるさまざまなフォーマットを自在にこなす卓越したプレイヤーとしての声望を高めることに成功した。

わが国へは86年に故松本英彦のコンサートにゲスト・プレイヤーとして招かれて初来日した。98年に先記C U Gジャズ・オーケストラにメイン・ソリストとして参加し、以後しばしば来日して妙技を披露。昨年も夫人でヴォーカリストのベッカ・デュランをともなって3度も来日したが、今やC U Gにはなくてはならぬ貴重なソロイストとなっている。

トーマスが駆使する楽器のレパートリーはトランペットとフリューゲルホーンに始まって、テナー、アルト、ソプラノ各サックス、さらにフルートと、驚くべき多彩ぶりを誇る。彼の大先輩でもあるジャズ史上の巨人ベニー・カーター以来の二刀流(トランペットとサックス)の名手という点で、マルチ楽器奏者花盛りの今日でも類い稀な楽器の使い手といってよく、加えてあらゆるフォーマットに柔軟に対応する自在性、高度な読譜力、洗練されたテクニックを踏まえていえば、彼に対する評価はいささか低すぎることを認めざるをえない。というより、むしろ彼の場合は一般に広く認知される機会に恵まれなかった不運を指摘するべきかもしれないが、こうした吹込作品が広く紹介され、それにつれて注目の度合いが高まれば、いずれ日本でも彼がその優れた音楽性に見合った正当な評価を獲得することは間違いないだろう。演奏スタイルを吟味すると、基盤となっているイディオム(表現形態)はバップだが、これをコンテンポラリーに発展させた明快な表現へと止揚した成果であることを強く印象づける。そこには彼の明快な主張がある。その最大のものはジャズの歴史に対する洞察と深い敬愛の念で、そこから生まれた信念が彼の演奏のすべてを支えているということだ。ややもすれば折衷的に受け取られかねない演奏スタイルも、彼が徹底的にアプローチ、吸収したトラディショナルからモダンにいたるジャズの多様な歴史的果実が、彼の血肉を通してひとつに統一された反映でもある。どんなスタイルにも順応し、常に柔軟性と真摯な挑戦意欲をを失わず、しかも融通無碍に音楽を楽しむトーマスらしさは、ここから生まれて実を結んだといっても過言ではないだろう。彼がブルースを愛し、そのサウンドにはチャーリー・パーカーとスリム・ゲイラードが同居しているといったことが、不思議でも何でもない理由はここにある。

本作は9346日に吹き込まれ、一昨年にトーマス自身のレーベルから再発されたものだ。「Easy Does It」(Discovery)に続く彼の最初のリーダー作の1枚で、当初はスタッシュ社から発売された。このあと「360 Degrees」(Hep)や「Rapture」(Jazz Focus)のほか、彼の私的なレーベル「McVouty」からの「Live at Tula’s」や愛妻ベッカ・デュランと組んだ近作「If You Could See Me Now」、「Song for Rita」などを発表したほか、ジェシカ・ウィリアムスを筆頭に多数のミュージシャンの吹込に名を列ねる。英国ツアーを帯同で行ったスリム・ゲイラードやジェイ・マクシャン、バディ・テイトら往年の巨人たちとの吹込共演もはたしており、最近話題になったアルバムにはデイヴィッド・フリーゼンの「Tomorrow’s Dreams」、自己のグループにエルヴィン・ジョーンズを迎えた「Jone’s for Elvin」もある。C U G の新作「ユース・アス」などでのプレイを含め、目をみはる吹込歴だ。

タイトルの「McVouty」は、往年スラム・スチュアートとのコンビ“スリム&スラム”で「フラット・フット・フルージー」のヒットを放ったスリム・ゲイラード(1916~91)が、得意のジャイヴ・トークによるコメディーの中で創始した特異な言葉「vout」と「oreenee」(トーマスは“Vout-o-roonee”と表記している)から、ゲイラードの芸と音楽性を象徴的に表している。英文ノーツにあるように、トーマスはゲイラードの音楽、人となり、考え方に共鳴し、晩年の彼と親密に交流した。この1作は彼に捧げて吹き込んだもので、「彼が元気だったら、きっと気に入ってくれたに違いない」と述べている。

共演者は、シダー・ウォルトン(p)、チャック・イスラエル(b)、故ビリー・ヒギンズ(ds)、シアトル出身で北西海岸地域にしか知られていないが熟達したプレイで定評のあるデイヴ・ピーターソン(g)、これに4、5の2曲でバーナード・レイ(perc)、4でトム・アートウィック(ts)、また夫人のベッカ・デュラン(vcl)が6でそれぞれ客演している。因みにトーマスは、ウォルトンと90年に共同でチ?ムを組んだことがあった。

タイトル曲の1と5がトーマス自身のオリジナル。3がバド・パウエル、4がジョン・ルイス、8と10がチャーリー・パーカーと、彼の敬愛する巨人たちのオリジナル。9も彼と親しいギタリスト、ハーブ・エリスの曲で、48年にルー・カーター、ジョン・フリーゴらと共作した。残りはいわゆるスタンダード曲で、2は37年にレオ・ロビンとラルフ・レインジャーが共作。7は42年にジミー・デイヴィス、ロジャー・ラミレス、ジミー・シャーマンが共作。いずれもビリー・ホリデイの愛唱曲として知られる。6はコール・ポーターの41年の作品。11はジョニー・マンデルが書いた比較的新しいバラード。12はエドワード・ヘイマンとヴィクター・ヤングが45年に共作した映画主題歌である。

トーマスは9と12でテナーを、1と10では恐らくトランペットとテナーの両楽器を、あとの8曲ではトランペットに専念して演奏している。本作では残念ながらフルートは吹いていない。詳しいデータはジャケット裏面のクレジットを参照するようお願いする。

            2003-3-20        悠 雅彦